Tokyo Summit 2016
in partnership with Conde Nast Japan | Tokyo American Club, October 11

Report

去る10月11日、東京アメリカンクラブを会場に、「デコーデッドファッション東京サミット2016」が開催された。ここには国内外のブランドリーダー、リテールアナリスト、そしてテックパイオニアたちが集結、ラグジュアリー業界のデジタルマナーとその未来について議論した。ユーザーとの新しい対話法、ユニファイドコマース、デジタルのローカライズからストーリーテリングのリブート、さらには日本のラグジュアリー消費者についての重要なインサイトまで、ハイライトを紹介する。

 

概要

 

データプラットフォームとしてのファッション:新たなブランド領域

アメリカのアパレルテクノロジーのエキスパートでありMITの客員研究員であるアマンダ・パークス博士は、プロダクト、デバイス、システム、そして宇宙進出の可能性も秘めたIoT について語った。パークス博士はウェアラブルテクノロジーを、未来におけるリテール環境に欠かせない要素と定義。そこでは、ブランドは単なる「プラットフォーム」として認識され、デジタル技術を駆使したスマートプロダクトが「モバイルなブランド体験」を演出することになるだろうと話した。

 

日本のラグジュアリー消費者のインサイト

Google日本法人のマネージングディレクターであるピーター・フィッツジェラルドは、ミクロ・モーメントに関する自社レポートから、最新の調査を共有。調査によると、ミクロなモバイルインタラクションに根ざした日本のラグジュアリー消費者の振る舞いが、オムニチャネル的な見解とともに明示された。

 

進化するストーリーテリング

リテールやブランドが発信するコンテンツは急増している。そんな中、どのようなストーリーが語られるべきか、また、その語り方が、現在のホットトピックになっている。「ギークなユーザー層」を巻き込みながら、恐ることなく、自社の物語をより詳細かつ深いレベルで明らかにすることで、ユーザーたちとの有意義なディスカッションが可能になる。

 

ユニファイドコマース

Intelのリテールセールス・グローバルディレクターであるジョン・スタインは、オムニチャンネル・リテールを「ユニファイドコマースの空間」と再定義。このテック界の巨人による最新のアプローチを紹介するとともに、テクノロジーをフル活用したリテール空間を実現するためにキーとなる原則を教示した。

 

対話のコントロール&デジタルのローカライズ

Google日本法人のマネージングディレクター、ピーター・フィッツジェラルドは、「スマートフォンは、ユーザーの人生のリモコンである」として、ブランドやリテール側は、ユーザーたちのスマートフォンを介した”eカンヴァゼーション”を密かにコントロールすることが、成功の鍵であると示唆した。さらに、ローカライズ、そしてパーソナライズされたコンテンツが、その成功をさらに後押しするだろうと語った。

 

知的欲求の向上

体験への欲求は、今や物欲に匹敵する。その意味で、テックやカルチャーに精通した知的なインフルエンサーは、リテール空間を向上させ得るよきパートナーだ。「デパートは知的欲求を満たす空間、つまり、最上の文化を見て触って買うことのできる、美しいものが詰まった箱であるべき」と『GQ Japan』編集長の鈴木正文は強調した。

 

日本のラグジュアリー消費者のインサイト

 

Google日本法人マネージングディレクター、ピーター・フィッツジェラルドは、ラグジュアリーグッズの消費者インサイトに焦点を当てた、新しいリサーチ結果を発表した。

 

ラグジュアリーへのスマートフォンの浸透

日本のスマートフォン所有率は59%だが、ラグジュアリーショッパーにおいては94%にも達する。

 

実店舗での購入が優勢

ラグジュアリーグッズの78%が店頭で購入されている(オンラインは11%)。また、そのうち11%は移動中に購入している。

 

ストアロケーターへのニーズ

スマートフォンを所有している日本の消費者の87%が、ストアロケーターを活用しており、オンライン検索から店舗での購買に直結している。

 

購入前後のEインタレスト

日本の消費者の92%が購入前にオンラインで検索しているが、うち44%は、購入後にもそのブランドについてのより詳しい情報を調べている(29%はメンテナンス情報の検索)。これは購買の前後両方において、インスピレーションや情報を得るためのコンテンツニーズがあることを示している。

 

購入したらシェア

日本のラグジュアリー消費者の16%が、購入後に製品についてオンラインでシェアしている。

 

ビデオインスピレーション

日本のラグジュアリー消費者の19%が、インスピレーションを得るためにビデオを閲覧している。

 

 

ユニファイド・コマース:かしこいオムニテック

 

サミットの重要な焦点のひとつとなったのは、より広範囲なオムニチャネル。ブランド体験の一部として、リテール環境の未来を研究することが重要だ。Googleによる上記のリサーチが物語る通り、フィジカルなリテール環境の未来を研究することが急務だ。

 

ユニファイドコマースの重要性

インテルのリテールセールス・グローバルディレクターであるジョン・スタインは、デジタル世代の買い物客を満足させるコンシューマージャーニーを実現することが必須だと強調。そのための構成要素や新しいサーヴィスを、以下のように挙げた。

 

いつでもどこでも可能な返品

クリック&コレクト

すべての販売チャンネルを消費者にコネクトする、エンドレスアイルテクノロジー

1度だけプロフィールを預ければ済む、統合された顧客登録

配送における「最後の1マイル」

セルフステアショッピングのためのオートメーション化されたリテール

ブランドに本物の価値を与えてくれる、第三機関によるサービス

「第4のチャネル」(自宅の消耗品補充サービス)

 

データは視野を広げてくれる

スタインはまた、インテルの新しいリテールセンサープラットフォームにスポットを当てた。これは、ブランドの在庫管理をほぼリアルタイムでサポートする在庫追跡システム。店舗内の各アイテムの位置を追跡することができるのはもちろん、そこから得たインサイトを、在庫の配置ミス、販売促進や棚出しのコンプライアンス、労働管理といった日常業務の管理において、より高次元で適切な判断を下すことが可能になる。さらには、実店舗における在庫をめぐる問題、例えば余剰在庫、在庫切れによる購入機会のロス、あるいはシュリンケージ(紛失や盗難による在庫減少)といった問題解消の糸口になるだろう。このツールは2016年9月にニューヨーク・ファッションウィークのポップアップストアで展示され、すでにリーバイスの一部のストアに展開されている。

 

このインテルの提案するソリューションの詳細については、以下のリンク先を参照のこと。

https://www-ssl.intel.com/content/www/jp/ja/retail/retailers.html

 

コネクティブ・ファッション:マテリアルとIoT

アパレルテック専門家でMIT客員研究員であるアマンダ・パークス博士は、インタラクティブな素材がブランド体験をどのように拡張し得るか、また、世界のウェアラブルテクノロジー市場が2024年までに700億ドルにまで達するという予測について触れた。「データプラットフォームとしてのファッション」の未来を伝えるベンチマークとして、パークスはGoogleがリーバイスとのコラボレーションで制作した「Project Jacquard」を紹介。テキスタイルにタッチとジェスチャーを検出する電子装置を織り合わせ、インタラクティブなものに変身させることのできるテクノロジーだ。例えばハンズフリーの音声のように、携帯電話を使うのが難しい局面では理想的だ。例えば、ユーザーが袖のカフスをタップ、スワイプ、またはホールドすると、音楽のトラック変更、電話のブロックや応答、または音声ナビゲーション情報へのアクセスが可能。

 

「モバイルブランド体験」としてのアパレル

前述のビジョンを拡張して、パークスは、企業に対し「あなたのブランド、プロダクトを、その内外で変化させるひとつのプラットフォームとして捉え、オンラインの活動や広告、店舗をプロダクト自体に融合させるという意識を持って欲しい」と訴えた。

 

「データドリブンな部屋は、私たちの時代の憧れだ」

ーーアマンダ・パークス博士、アパレルテクノロジー専門家、MIT客員研究員

 

対話のコントロール&デジタルのローカライズ

 

コンテンツの力は、ユーザーのエンゲージメントを築くための重要な要素だ。スピーカーの何人かは、ソーシャルメディアや検索を含め、リテールが発信するコンテンツが購買欲を刺激し、オンラインやソーシャルメディアでのユーザー対ブランドの会話が、セールスを加速させると話した。

 

デジタル空間の中の「私」

デジタルなライフスタイル・ショッピングのプラットフォーム、 ShopStyleのEU市場を統括するジュヌビエーブ・クンストは、デジタルを「新しい『私』の時間」と表現し、ティーンやミレニアル世代が、デジタルコンテンツのブラウジングを「遊び」とみなしていることを示唆した。「現在、実にミレニアム世代の43%が、ショッピング体験を高めるコンテンツを求めており、また、世界中の18歳から34歳の年齢層における女性のうち91%が、ブログを見た直後に購入している」とのデータを披露した。

 

トレンドランキングソフトウェアの活用

ShopStyleは現在、サイトのコンテンツを新しいソフトウェアを用いてポストしている。それはソーシャルメディア上で流行しているストーリーを抽出し、チームからのインプットと売り上げデータを融合して、どのストーリーがコンテンツに変換されるべきかを決定するというもの。クンストは米国のキッチン用品・収納ブランドであるラバーメイドのキャンペーンを例に挙げ、ソーシャルメディア上でランチボックス(弁当箱)が流行していることをデータから読み解き、新学期プロモーションの一環として、ブランドの弁当箱をフィーチャーした「ネイティブ」コンテンツによるマーケティングキャンペーンを行う、という事例を紹介した。

 

ソーシャルメディアのマネタイズ:リンクが多い方が楽しい

ソーシャルメディアの投稿(ブランド自身か、アフェリエイトのアンバサダーによるもの)に対するマネタイジングについて、クンストは、「投稿内のリンク数と購入の可能性は比例する」と述べた。これは、2016年にローンチされたPopsugarが展開するEコマースアプリ、Emoticodeで実践されている。ここでは、ブランドとブロガーがSnapchatやInstagramの投稿に絵文字形式で製品への短縮リンクを追加できるというもの。

 

デジタル・インスピレーションから実店舗への誘導

Googleのフィッツジェラルドは、ユーザーにインスピレーションを与えるコンテンツを通じて購買意欲を喚起するとともに、購入情報やニュースメールの受信、さらに実店舗への訪問へと繋げるプロセスをローカル在庫広告を介して簡略化することで、ユーザーの購買意欲を維持する重要性を強調した。氏が成功例として挙げたのは、オーストリアのジュエリーブランド、スワロフスキーのアプリ「スタイルファインダーツール」。アプリ内のジュエリーのスタイリング例を紹介しているセクションは、Googleのローカル在庫広告ツールと連動しており、気にいったアイテムの在庫店舗とそこへの行き方を(Googleマップで)表示する。これによって、スワロフスキーは同社の標準的なショッピング広告よりも75%も高いクリックスルー率を実現、モバイルセールス全体を150%以上増加させた。

 

進化するレコメンデーションツール

消費者の囲い込みや、より価値の高いファッション体験を創出するためのリサーチを経て、フィッツジェラルドは、GoogleとドイツのEテーラーであるZalandoのコラボレーション「Project Muze」を紹介した。これは、GoogleのオープンソースプラットフォームであるTensorFlowをベースとしたもので、人間の脳の美的感覚のパラメーターをモデル化したアルゴリズムに基づき、自分好みの服を画面上でつくれるもので、色やテクスチャー、600人以上のファッションエキスパートから得たスタイルデータ、さらに、GoogleのファッショントレンドレポートとZalandoの有する小売情報によって、随時、進化していく。記号性のみによってつくりだされる最終的なデザインはまだ面白味に欠けるが、従来のときに不正確なレコメンデーションに取って代わるツールになりうる可能性も秘めている。

 

進化するストーリーテリング:感情、知性、意見

 

Eテールの莫大なリーチがもたらすユビキタスへの潜在的需要と共に、真に価値のあるストーリーテリングを構成しているものとは何か。そして、それらのストーリーは今どのようなトーンで語られるべきなのか。こうした問いに、知見者たちは、次のように答える。

 

知的なインフルエンサーの新時代

「インフルエンサーとは、もはや『セクシーな若い女性』を指すのではありません。ラグジュアリーな消費者にとっては、アートやカルチャーに精通した、より知的な人々こそ、インスピレーションの源泉となるのです」。そう語るのは、ショッパブルコンテンツのEテールサイト「Semaine」の共同創設者、ジョージーナ・ハーディング。「Semaine」の人気コンテンツは、買い物可能なウィークリー・ビジュアルストーリー「visionary」だが、2016年に「Semaine」は、こうしたインフルエンサーをめぐるファッション業界のステレオタイプを覆すべく、英国のテクノロジー起業家で、元首相デヴィッド・キャメロンのアドバイザーを務めたローハン・シルバをフィーチャー。エンゲージメントとセールの両方の見地から、これまでで最も成功したストーリーのひとつになった。

 

「政治などのシリアスなテーマを扱うストーリーによって、より深みのある世界を構築することができる。全員を喜ばせようとするのはナンセンス、何も言えなくなってしまうから。80%の人に響かなくても、20%の人がロイヤルなブランドオーディエンスになってくれたら、それでいい」

ーージョージーナ・ハーディング、SEMAINE共同創設者

 

ギークなストーリー

ミリタリーウェアや装備を再利用したコレクションで知られる英国のサスティナブル・ファッションデザイナー、クリストファー・レイバーンは、自身の経験から、プロダクトの由来とコレクションのコンセプトについてのストーリーが、もっともユーザーの興味を引いたと話す。ショッパーとプロシューマーは、ともに「突っ込んだ話を求める点において、同様にギークだ」と語っている。

 

テクノロジーファンが求めるコンテンツ

カスタマイズ可能なニットウェアを開発した、イギリスのブランド「Unmade」共同創設者であるカースティ・エメリーは、「ユーザーは、プロダクトだけでなくその裏側にあるテクノロジーや、ものづくりのプロセスも知りたがっている」と話す。こうした背景を語ることで、Unmadeは、ユーザーだけでなく、クリストファー・レイバーンといったブランドも惹きつけたのだ。

 

メディアとしてのファッション&進化するストア

より奥行きのあるストーリーがユーザーの興味を捉えるというアイデアは、「Semaine」のもうひとつのウィークリーコンテンツ「episodic」にも生かされている。こうしたストーリーが、ユーザーの再訪率向上をもたらしたとハーディングは言う。

 

一貫したエキサイトメント

レイバーンは「スケッチブックで考えを発展させるように、コネクテッドストアを通じてアイデアを進化させる」ことが、今や「一貫したエキサイトメント」の起爆剤になっているという。彼は、自身がSS15コレクションのために制作した映像作品を主な例に挙げながら、ファッションの弱点は、シーズンごとに新しい意味を与えなければならいことだと語った。そして、自身が制作したより普遍性の高い短編アニメを紹介した。

 

1ストーリー、複数チャネル

レイバーンの「複数のレンズを通したひとつのストーリー」のアプローチに共感を寄せる日本のデジタルストラテジスト、ナカヤマン。は、2015年の10月に行ったGucciとのTri-Stageプロジェクトを紹介した。概要は以下の通り。

 

①渋谷のスクランブル交差点の上にある巨大スクリーンをいくつもハックし、それらスクリーン上に、交差点を横断するファッションショーのビデオを映す。

②交差点にブロガーたちを集結させ、そこでの様子をソーシャル上にポストしてもらうことで拡散を促す。

③その結果として、プロジェクトそのものがニュースとなり、多くのオンラインメディアで紹介される。

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未来へのインサイト

 

ユニファイドコマースを実現するためには、IoTの採用を

リテールの未来は、既存の小売チャネルの先にだけ広がっているわけではなく、プロダクトや第三機関のサービスを、自身の新たなチャネルとして採用することで実現される。あなたのブランドを総合的なデータプラットフォームとして、つまり、広告、Eコマース、実店舗、そしてプロダクトを、ひとつの体験を構成する重層的な要素として再考しよう。

 

ブランドの内外でユーザーの会話を利用する

ブランドの所有するデータに加えて、トレンドをトラッキングするソフトウェアは、ソーシャルメディア上の話題に即して、より効果的なコンテンツを生成したいと考えているブランドの大きな一助になる。あなたのブランドのアピールをリアルタイムで適合させるためにも、多様なインサイトツールを採用するべきだ。

 

フィジカルーデジタルな体験をローカライズする

人を惹きつけるブランド体験には、今やパーソナライゼーションが不可欠だ。Googleのローカル在庫広告のようなデジタルツールは、デジタル上の会話や質問を、オンラインよりも大きな利益を上げている実店舗へと導く(フィジカルな空間は、デジタル世代にとっても重要だ)。オンラインでフリーサイズばかり購入してしまうのを阻止するためにも、ローカライズを活用して、あなたのユーザーをアシストしよう。

 

知性でストーリーを語る

ブランドのストーリーテリングは、いま、もっとも重要な要素だ。消費者の再訪を促すような鋭いインサイトや独自の見解、あるいはTVスタイルの「エピソード風コンテンツ」など、その手法も進化している。冒険と豊かさを求めるラグジュアリーな消費者のために、文化を敬い、知性と誠実さをもってふるまおう。

Decoded Fashion
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